石炭船の荷役のリアル|深さ25mの船倉に入る、港湾で一番ハードな現場

港湾でいろんな船を扱ってきたけど、一番デカくて、一番ハードやったのが石炭船よ。8万トンクラスの外航船で、深さ25mくらいある巨大な船倉に、人が入って作業する。酸欠を測り、梯子を降り、石炭がなだれてくる——ネットでもまず出てこん、この船倉の中のリアルを、現役で港湾におる僕が書いとく。荷の種類で仕事が全然違うんは運ぶ荷で全然違う話の記事にまとめとるけん、そっちもどうぞ。

船倉に入る前|まず「酸欠」を測る

石炭船の作業は、いきなり降りるんやない。まず入口で、酸欠(酸素欠乏)を専用の機械で測る。意外かもしれんけど——石炭みたいなばら積みの荷は、それ自体が酸化して、船倉の中の酸素を吸うてしまうんよ(船倉の鉄の壁そのものも、錆びる=酸化で酸素を吸うし、木材チップなんかも同じ。積荷によって変わる)。やけん、閉じた船倉の中は酸素が薄うなっとることがある。これは油断したら命に関わる、本気の危険——実際に、石炭やチップの船倉で酸欠の死亡事故も起きとるくらいよ(厚生労働省・職場のあんぜんサイトの事例)。

「港湾って体力勝負でしょ」と思われがちやけど、こういう地味な安全確認の積み重ねが、実は現場のリアルよ。

深さ25mの箱に、自分の足で降りる

船倉のデカさを、ちゃんと伝えとく。高さ25mくらい、縦も横も15〜20mくらいある、でっかい鉄の箱。しかも、上のハッチ(フタ)を開けた開口より、中の船倉のほうが広い。そこに石炭がぎっしり詰まっとる。

この箱の底まで、トモ(船尾)とオモテ(船首)に付いとる、螺旋階段タラップ(直の梯子)で降りる。片方が螺旋、片方がタラップ、みたいになっとるけん、結局両方使う

ここを毎回、自分の足で降りて、また上がってくる。「港湾=重機に乗っとるだけ」のイメージとは、だいぶ違うやろ。

揚げ方|バケットは「真下」にしか下りん

石炭を揚げるのは、引き込みクレーンに付けたクラブバケット(パカッと開閉してつかむバケット)。これを船倉に下ろして、石炭をガバッとつかんで揚げる。ほんで、ここが一番こわい所なんやけど——このバケット自体が、とんでもない凶器なんよ。重さ2トン・3m四方くらいの鉄の塊が、30m近い上空からスーッと降りてくる。しかも作業員は、後で書くとおり船倉の中で重機を動かして石炭を寄せよる。つまり、その頭の上を、ずっとバケットが行き来しとるわけよ。「つかむ一瞬だけ気をつける」みたいな話やない。バケットが動きよる間はずっと、常に頭上を気にしとかんと、命がいくつあっても足らん。港湾で上を見る癖がつくのは、これがあるけんよ。

ここで大事なんが——バケットは、基本"真下"にしか下りん(慣性で多少振れることはある)。やけん、ハッチ(フタの開口)の真下にある石炭は、どんどんつかめる

問題は、さっき言うた「中の船倉のほうが、フタの開口より広い」っていう構造。コーミング(倉口の縁)の下——つまりハッチの開口より外に張り出した部分の石炭には、バケットが届かん

ここが船内に人と重機が要る理由よ。バケットが届かんコーミング下の石炭は、ぜんぶ重機で、バケットが届く中央まで掻き寄せる。さらに、船壁のトモ・オモテには配管(パイプ)が数本通っとって、そこに詰まった石炭も、いちいち落としていく。そうやって、最後の一粒まで全量きれいに揚げるんよ。

「ザーーーッ」——10mの石炭がなだれてきた日

一番肝が冷えた話をする。あれはまだ重機を入れる前やった。

船壁のパイプに詰まった石炭を落とす作業のために、僕はパイプの近くへ移動しようとしとった。手に持っとった道具を、先にパイプの近くへ放り投げた——その瞬間やった。

「ザーーーーーッ」

10mぶんくらいの石炭が、雪崩みたいに一気に流れてきた。崩れんように見えても、振動や衝撃で一気に崩れるんよ。正直に言う——もしあの時、僕が道具やなくて自分の体ごとパイプの所まで行っとったら、今こうして記事を書けとらんかったかもしれん。

数トン〜数十トンの石炭を相手にする世界やけん、危険とは、常に隣り合わせ。安全のルールがあるのも、こういう瞬間が現実にあるからよ。

粉じん・暑さ寒さ|鉄の箱の中の環境

余談|真っ黒な石炭の中から、琥珀が出てくる

しんどい話ばっかりやったけん、最後にひとつ、ちょっとええ話をしとく。石炭の中を普通に歩きよると、たまに琥珀(こはく)が目につくんよ。あの、茶色くて飴みたいに透き通った石やね。

面白いのが、その出方。琥珀は石炭の中で層になっとるみたいで、石炭でサンドイッチされたみたいに、ぺろっとはさまっとる。これをけっこうよう見かける。

考えてみたら当たり前なんよ。石炭は大昔の植物が、琥珀は大昔の樹液が、長い長い時間をかけて化石になったもん。元はおんなじ森から来とるんやけん、一緒に層んなって眠っとるわけよ。真っ黒で泥くさい船倉の底で、ふっと太古のかけらに出会う——こんなん見れるんは、船倉に入る人間だけの役得かもしれんね。

それでも、「毎日12時間の地獄」ではない

ここまで読むと「石炭船、地獄やん」と思うかもしれん。確かに港湾の中で一番ハードなのは、石炭船で間違いない。でも、誤解せんでほしいことが一つ。

よう言われる「12時間ぶっ通し」みたいな長い日は、この石炭船でも"年に1回あるかないか"の特別なケースやった。基本は8時〜17時で、たいていはその枠に収まる。早う片付けば、その日は早う帰れることもある。「港湾=毎日12時間」は、ただのイメージよ(働き方の全体像は港湾荷役はガラが悪い?きつい?の記事に書いとる)。

よくある質問

石炭船の船倉って、どれくらいの大きさ?
僕がおった石炭船は8万tクラスで、船倉は高さ25mほど、縦横も15〜20m級の巨大な鉄の箱やった。上のハッチの開口より中のほうが広い形で、そこに石炭がぎっしり詰まっとる。
船倉に入るのは危なくない?
危険はあるけん対策する。まず入口で酸素を測って、酸欠の数値が悪ければ時間を空ける(荷が減ると空気が回って改善する)。降りる梯子では落下を止めるセフティーブロックを使う。それでも荷崩れの危険は本物で、僕は10mの石炭がなだれてきた経験がある。
石炭船は毎日12時間みたいに過酷?
港湾で一番ハードなのは事実。ただ、12時間ぶっ通しみたいな日は、この石炭船でも年に1回あるかないかの特別なケースやった。基本は8時〜17時で、たいていはその範囲よ。
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この記事を書いた人 IT・営業・製造・整備・港湾と、いくつもの仕事を渡り歩いてきました。今も港湾で働きながら、体を動かせて人間関係に無理のない現場はないか探しとります。きれいな成功談やなく、自分が体験したことだけを、正直に書いとります。詳しくは運営者情報へ。